5月11日(水) ACL 予選Fグループ第5節 済南スタジアム
山東魯能泰山 2−1 横浜F・マリノス
第2部
アウェー応援ゾーンはゴール裏の一帯。
両側にはしっかりと緩衝地帯が作られていた。
逆側のゴール裏には人の姿はなく空席、応援はバックスタンドで行われていた。
しかも三箇所のゾーンでバラバラに応援している、来ているユニ?の色も微妙に違っていた。
後から聞いた話では、5万人は入るスタジアムなのに、安全を考えて、チケットを3万枚くらいしか捌かなかったらしい。
だからダフ屋も出てないのか?これだったらまっきぃさん一人くらい入れてあげても良かったじゃないか。
スタンドでは先に入った人たちによるコールがされた後で、ひたすらアップをしている選手達を眺め続けていた。
一人のカメラマンがゴール裏に近づいてきて声をかけくる、
「もう応援しないんですか?」
どうやら、応援しているところを撮りたいらしい。
別にあなたのために応援しているわけではありませんとばかりに、キックオフまで静観し続けた。
椅子の上に足をかけていると、公安から注意が入った。
壊れやすいから上に載ってはダメらしい。
その後、日本人が怪しい動きをするたびに、公安がカメラのシャッターをきっていた。どうやら何かあったときのための証拠写真らしい。
いよいよキックオフ。
スタジアムには時計の表示がなく、持ち込んだストップウォッチで時間を計ろうとしたら、なくなっているではないか。
どうやら第3関門のごたごたで無くしてしまったらしい。まあ仕方がない、携帯の時計で時間を確認することにした。
各々持ち込んだフラッグなどを振りかざす。
みゃんまーさんがLフラを振っていると、すぐに制止が入った。ポールを外してフラッグのみで振っていると、
「このまま続けると逮捕するって言ってるからやめてくれ」
と、忠告があったようだ。一旦は引き下がったが、要所でチョコチョコ振ってたらしい。さすが。
早々にフリーキックからヘディングのゴールが決った!
盛り上がるゴール裏。このときちょうど苦心して持ち込んだバンデーラを出すところだった。
これは縁起が良いぞ!と、バンデーラを広げ振っていると、ものの一分もしないうちに、シミスポから、
「このまま使ってると没収されるから、そうなる前に預かるから」
ということになってしまった。
シミスポもANAの添乗員も中国側とサポータの間に入って大変だったようだ。
先制したのは良いものの、その後圧倒的な山東ペース。
中盤を支配され、サイドの裏をつかれまくる。どうもドゥトラにキレがない、やはり病みあがりは辛いのか。
哲也のセーブで何とか凌いできたが、ついにカウンターから失点を喫してしまった。
湧き上がるスタンドと共に、ゴール裏のプレスも大喜び。中にはこっちを向いて煽ってくる奴もいる、スゲームカツク。
その後も押され続ける。いつ失点してもおかしくないような雰囲気の中、前半終了の笛が鳴った。
時間を気にする暇もなく応援し続けていたが、あっという間に前半が終了した感じだった。
ハーフタイム中に水の配給を受ける。
この水でさえ、交渉の末にようやく許可が下りたらしい。
コンコースでは公安の連中がタバコを吸っている。
もちろん日本人は持込を禁止されていたのだが、それを見た○○○ーが、
「公安が吸ってんだから、俺達もいいだろ」
と、皆でタバコを吸い始めた。
ちなみに公安は持ち込み禁止のペットボトルを一人1本ずつ持ち、水分補給をしていた。
はっきり言って公安は水分補給するほど何もしてないだろ。
後半。
スタジアムの様子が一変した。
ボールボーイや担架要員までもが時間を稼ぎはじめる。
ゴールラインを割ったボールを哲也がダッシュして取りに行く姿が何度となく繰り返された。
山東の選手はちょっとした接触ですぐに倒れ込む。
ノロノロと入ってくる担架。いつまでも起き上がらない選手に、ジョンファンが何か言いに行くと、なんと担架要員がジョンファンを平手打ち。
顔を覆い倒れ込むジョンファン。
主審は副審に確認して、手を出した担架要員を退場処分に。
何もかもがありえない空間だった。それに徐々に呑まれていく。
心の底では冷静にならなければという思いもあるが、あの異常な現場の空気の中では、そう冷静さを保てるものではない。
サポーターも選手も、そして審判までも。
右サイドをジョンファンが切り込み、フリーの久保へパス。久保のシュートはDFに跳ね返されるも、詰めていた隼磨がシュート。
自分はスタンドの最前列にいたため、ゴールラインが見えず、何が起こったのかわからなかった。
どうやら、ボールがゴールラインを割っていたにもかかわらず、ゴールが認められなかったようだ。ゴール裏からではハンドまでもがあったことは分からなかったが。
審判に詰め寄る選手達。主審は副審に確認しに行くが、やはりゴールは認められず。オマケにベンチから副審に詰め寄っていた河合とディドが退場処分。
ありえない、本当に何もかもがありえない空間だった。
ロスタイムは7分。
完全に前がかりで点を取りにいったが、カウンターから失点してしまう。
静まり返るゴール裏、思わず、
「まだ時間はある!まだあるよ!」
と叫ぶ。
試合再開。
喜びすぎた山東のGKはまだゴール前に戻っていない。
キックオフのボールを受けたジョンファンはすかさずキックオフゴールを狙った。
タイミング的にはゴールだったが、ボールは虚しくバーの少し上を越えてネットを揺らすに留まった。
そして、このまま試合終了。
崩れ落ちる選手達の中、祐二がフラフラと歩き出す。センターサークルでの挨拶も忘れ、真っ先にこっちへやってくる。
もう涙が止まらなかった。試合に負けたこと、予選突破が閉ざされたこと、そして祐二のサポーターへの思いに。
思えばインドネシアで、わざわざサポーターを労いに来てくれたのも祐二だった。
改めて選手とサポータの思いが一つだったことを実感し、より悔しさが込み上げてきた。
センターサークルで挨拶をした選手達がこちらへやって来た。
看板のところで公安の制止が入る、真っ先に隼磨が制止を振り切る、それに続いて他の選手達も。
選手が見えなくなるまでコールは続いた。涙で声にならない声で必死にコールし続けた。
去年、クディリで予選敗退の事実を知った時は、悔しくも涙は流さなかった。
事前の城南の15−0という結果を受け、そして後半から降り出したスコールで、どこかで仕方がないという思いがあったのだろう。
その分も今年にかけていた予選突破、そしてアジアチャンピオン。
その目標が閉ざされて改めて感じた、自分の中ではリーグよりもACLにかける気持ちの方が大きかったのだと…。
試合後、中国人はあっという間にいなくなり、安全が確保されるまで待たされている日本人だけスタンドに取り残されていた。
静まり返ったスタンドで、あちこちからすすり泣く声が聞こえた。
さまざまな思いが脳裏をよぎる。
去年の12月に予選の組み合わせが決まった時は、突破を信じて疑わなかった。
過酷だったマカッサル遠征やバンコク遠征。
全てがACLを中心に生活してきたといっても過言ではない3ヶ月間だった。
どんなに辛くても、ACLという目標があったから頑張れたのかもしれない。
それが終わってしまったのだと思うと、また涙が溢れてきた。
しばらくして、ようやくスタジアムを後にしてバスでホテルへ移動する。
その間、誰一人として一言も言葉を発することはなかった。